災害時に役立たない安否確認。なぜ社内の連絡先データは年22.5%以上劣化し、有事に沈黙するのか?

執筆者:CFO 永見 和平

皆様、こんにちは。インサイトテクノロジーCFOの永見です。

8月に入り、厳しい暑さが続いています。それと同時に、この時期は多くの企業で「防災の日」や秋の防災週間に向けた準備が進む頃ではないでしょうか。

日頃、私が統括している管理本部(法務・総務、経理・財務、人事・採用・労務・情シス・経営企画)にとっても、この「防災・BCP(事業継続計画)」は極めて重要で、かつ一瞬の油断も許されないミッションクリティカルな領域です。

今回は、多くの総務担当者や情シス担当者が、重要性は理解しながらも日々頭を悩ませている「安否確認」と、私たちの本業である「データマネジメント」の意外で深い関係についてお話ししたいと思います。

1. 年に数回の「防災訓練」で感じる、あの猛烈な違和感

「訓練ですので、システムから配信されたメールの安否確認ボタンを速やかに押してください」

年に数回行われる避難訓練や、安否確認システムの動作テスト。皆様の会社でも、よく目にする光景だと思います。

総務部が安否確認メッセージを一斉送信する。しかし、送信した直後、総務担当者のPC画面には冷酷なログが並びます。

「宛先不明(User Unknown)」
「配信エラー」

数か月前に退職したはずの社員にメールが送られ、逆に先月入社したばかりの期待の新入社員には安否確認すら届いていない。あるいは、今年の春に大規模な組織変更を行ったはずなのに、配信グループが「1年前の古い組織図」のままになっており、現場のマネージャーから「うちの部署のメンバーが半分も入っていません」とクレームが入る。

それでも、テストの「回答率100%」という目標(ノルマ)を達成しなければならない総務担当者は、期日が近づくと血眼になって未回答者をリストアップします。そして、日常業務で使っているSlackで「〇〇さん、安否確認テストのボタンを早く押してください!」と個別に催促し、それでも押してくれない人には電話をかける……。

私はこの光景を見るたびに、胸の奥で猛烈な違和感を覚えるのです。

「全員の安否回答を回収する」という目の前の数字を集めること自体が目的化してしまい、肝心の「安否確認の名簿マスタが、平時から完全に形骸化している」という深刻なバグに対して、誰も声を上げない。有事の際に社員の命を守り、事業を継続するための仕組みが、平時には完全に「誰も困らない静かなバグ」として放置されている。

この違和感の正体こそ、データマネジメントの世界で長年議論されてきた「データの腐敗」そのものなのです。

2. 「データは放置すると腐る」という冷徹な物理法則

先日、当社のCROである阿部が、ブログの中で非常に興味深い統計を紹介していました。

「B2Bの顧客CRMデータは、毎年22.5%のスピードで劣化する」

転職、異動、企業の合併や倒産。外の世界が変わり続ける以上、一度きれいに整備した顧客データも、メンテナンスを怠れば年間で4分の1近くが「使えないゴミデータ」になってしまうという冷徹な事実です。

これは、社外の顧客データに限った話ではありません。総務が管理する「社内の緊急連絡先リスト」や「従業員名簿」「組織マスタ」も、全く同じ、あるいはそれ以上のスピードで日々劣化し、腐敗しています。

なぜ、社内の名簿データはこれほどまでに腐りやすいのでしょうか?

理由はシンプルです。

平時において、社員にとっても、そしてデータを管理する総務部門にとっても、「緊急連絡先や名簿データを日常的に正しく更新し続ける動機」が存在しないからです。

社員にとって、個人の携帯電話番号や緊急連絡用メールアドレスが変わったとしても、普段の業務(SlackでのチャットやGoogle Workspaceでの共同作業)で困ることはありません。住所が変わったときはさすがに届出を出しますが、「連絡先のアドレスが変わっただけ」でわざわざ社内申請システムを開き、面倒な登録変更手順を踏む社員は稀です。

そして総務部門にとっても、入退社や毎月の組織変更の対応だけで手一杯なのが現実です。年に数回しか使わない「安否確認システム専用の名簿マスタ」を、普段から最新に維持するための工数を割くことは、優先順位としてどうしても後回しになります。

その結果、システムは最新で高価な「安否確認ツール」であっても、その中身であるデータは静かに、しかし確実に腐敗していくのです。

3. 石川が語った「荒れ地化の3段階」は、総務の名簿でも起きている

当社のCSOである石川は、ブログ「データカタログは、なぜ3年で荒れ地になるのか?」の中で、企業のデータガバナンスが崩壊していく構造を非常にシャープに分析していました。

彼はそこで、ガバナンスが崩壊する最大の原因を「更新しないことのコストが、誰にも請求されないこと」だと指摘しています。そして、その崩壊は以下の「3段階」で進むと説いています。

第1段階:更新されない(登録する人と使う人が別で、更新のインセンティブがない)
第2段階:だから、見つからない(古いデータで凍結し、現実と乖離する)
第3段階:だから、信用されない(一度でも間違った情報に当たると、誰も使わなくなる)

驚くほど、総務の安否確認名簿や緊急連絡先リストが形骸化していくプロセスと一致していないでしょうか。

名簿が古くなっていても、平時に困る人は誰もいません。だから更新作業は後回しになり、名簿は荒れ地化します(第1段階)。

いざ災害訓練や緊急事態が起きたとき、現場の実態(現在の最新の組織体系やメンバー構成)に基づいて安否確認を配信しようとしても、システム上の所属が古いために、該当する社員が見つからなかったり、別の人に届いたりします(第2段階)。

このような不具合を数回経験すると、現場のマネージャーや社員は「どうせあのシステムの名簿は古いから」と諦め、安否確認システム自体を信頼しなくなります。有事の際にも「あてにならないシステム」として見捨てられ、結局Slackのダイレクトメッセージや個人のLINEで連絡を取り合うようになります(第3段階)。

多くの企業は、この「第3段階」の信頼失墜に直面したとき、こう考えます。

「今の安否確認ツールは使いにくい。Slack連携がスムーズで、スマホアプリのUIが使いやすい、もっと多機能な専用ツールにリプレイスしよう」

しかし、断言します。

Excelの連絡先名簿から専用ツールに替えても、あるいはツールを他社製品に買い替えても、同じように荒れます。

なぜなら、問題はツールの機能不足ではなく、「有事(年に数回)のためだけに独立したデータを持たせ、日常の業務から切り離している」というアーキテクチャ(設計思想)の歪みにあるからです。

4. 「平時の動線」にデータを組み込む、データガバナンスの思想

私が以前のブログで、「管理会計ツールをあえて解約してExcel管理に戻した」エピソードを書いた際、皆様に最もお伝えしたかったのは、ツールの良し悪しを議論する前に、「自社がどうデータを扱いたいかという『データの形(構造)』と『日々の運用のルール』をシビアに一致させる」ことの重要性でした。

安否確認の名簿データを絶対に腐らせないための唯一の解決策。

それは、「年に数回のイベント(有事)のためだけに、独立したデータを持たせるのをやめる」ことです。

日常的に社員が使い、日常的に総務や情報システム部門がメンテナンスしている「平時の業務動線」の中に、連絡先マスタや組織マスタを自動で同期・一元化させる仕組みを組み込む。これしかありません。

例えば、私の第1回ブログで紹介した「管理本部における自社製カスタムRAG(Slack連携の社内ヘルプデスク)」の取り組みが、この良いヒントになります。

あのプロジェクトでは、社内規程をAIに学習させ、Slackからの質問に自動回答させる仕組みを構築しました。

当初46%だった回答精度を検証段階で81%、そして最終的に90.6%まで引き上げるプロセスで、 私たちが身をもって痛感したのは、やはり「回答の元となるドキュメント(データ)のメンテナンスを、いかに日常業務の中に組み込むか」という点でした。

ドキュメントを更新しないままでいると、AIは悪気なく古い規程を答え続け、一瞬で社内の信頼を失います。だからこそ私たちは、日常的に総務がドキュメントを格納しているGoogle Driveから、自動でアップデート情報をカスタムRAG(AI)に同期・取り込みを行うデータ連携(ETL)の仕組みを整備しました。

安否確認も、全く同じ思想で設計されるべきです。

社員がプロフィールを更新したり、組織変更のたびに情シスがアカウントをメンテナンスしたりしているGoogle WorkspaceやMicrosoft 365、あるいは日常のコミュニケーションツールであるSlackのユーザー情報。

そこから、安否確認システムの名簿マスタが、人間の手を介さず「裏側で自動的にクレンジングされ、同期され、最新に保たれる」インフラを構築する。

年に数回の「有事」のためだけに無理にデータを登録させるのではなく、「平時の業務の動線(日常)」からデータを流し込み、鮮度を担保する。

これこそが、私たちがデータマネジメント、そして「データガバナンス」の視点から提唱したい真の解決アプローチです。

5. 平時のデータマネジメントのレベルが、有事の企業の生存力を分ける

私が第3回の人的資本経営(タレントマネジメント)のブログで申し上げたように、目的や解決すべき課題が曖昧なまま、システムがあるからと「とりあえず収集」したデータは、分析を歪め、ただの「維持コスト」になります。

そして、その収集したデータが「腐っている」状態を放置することは、平時には目に見えない「サイレントな負債」となり、企業の危機(有事)において決定的な致命傷となります。

本当に大地震や災害といった極限状態が訪れたとき、企業の生死を分けるのは、金庫の中にしまわれた立派な「防災マニュアル」や、高価な「安否確認ツール」の有無ではありません。

平時から「データは放置すると腐る」という現実に正面から向き合い、ツールがサイロ化(孤立)するのを防ぎ、日常業務の動線から自動的にデータの鮮度が保たれる「同期とガバナンスのインフラ」を情シスと共に築いてきたか。

そんな、極めて地味で、本質的な「データマネジメントの力」こそが、有事における企業の本当の生存力(レジリエンス)を決定づけるのです。

インサイトテクノロジーは、30年にわたってデータベースの整合性、パフォーマンス、かつセキュリティと向き合ってきた専門家集団です。

私たちは、企業のコンプライアンスやガバナンスを守るため、そして何より現場が安心してビジネスのアクセルを踏める強固な「守りの前提」を作るために、平時の地味なデータクレンジングやガバナンス体制の構築から、プロフェッショナルとして伴走し続けます。

皆様の会社の「安否確認の名簿」、最後に更新されたのはいつですか?

そのデータは、本当に、明日の大地震の瞬間に大切な社員の命を繋ぐことができますか?

ツールを入れる前に、まずその「データの形」と「平時の動線」を、私たちと一緒に見直してみませんか。

最近の記事

TOP CxOリレーブログ 災害時に役立たない安否確認。なぜ社内の連絡先データは年22.5%以上劣化し、有事に沈黙するのか?

Recruit 採用情報

Contact お問い合わせ

  購入済みの製品サポートはこちら

製品サービス

自社開発製品群

データ統合

ディザスタリカバリ

プロフェッショナルサービス