SAP S/4HANA移行におけるデータ連携の課題と解決策

「SAP ERP(ECC 6.0等)からSAP S/4HANAへの移行プロジェクトで、データ連携が最大の課題になっている」「周辺システムとのインターフェースをどう引き継げばいいか、見通しが立たない」——SAP移行プロジェクトの現場で、こうした声を頻繁に聞くようになりました。

背景にあるのは、迫り来る「2027年問題」です。SAP ERP 6.0(ECC 6.0)の標準保守は、2027年末で終了します。当初は2025年末の予定でしたが、世界中の企業で移行が想定以上に難航したことを受けて、2年延長されたものです。標準保守終了後も延長保守は2030年末まで提供されますが、追加コストが発生し、機能拡張も限定的です。

さらに深刻なのは、SAP S/4HANA移行に長じたコンサルタント・エンジニアの確保がすでに困難になっている点です。多くの企業がここ数年で一斉に移行を進めようとしているため、人材・パートナー企業が逼迫しており、従来通りのスケジュール感・予算感での移行が成り立たなくなりつつあります。今動き始めなければ、移行のための体制を確保すること自体が難しくなる、というのが現状です。

S/4HANA への移行プロジェクトは、単なるバージョンアップではなく、データベースの構造、周辺システムとのインターフェース、業務プロセスまでが大きく変わる、事実上の再構築です。本記事では、SAP移行プロジェクトで実際に直面するデータ連携の課題を整理し、その解決策としての Qlik ReplicateのSAP対応機能、活用パターン、そして実際の導入事例まで解説します。

この記事で分かること

  • SAP S/4HANA移行プロジェクトで発生する、データ連携の4つの主要課題
  • 移行アプローチ(Greenfield/Brownfield)とデータ連携設計の関係
  • Qlik ReplicateのSAP対応機能と、SAP移行での具体的な活用パターン

1. SAP S/4HANA移行で発生するデータ連携の課題

SAP移行プロジェクトのデータ連携で典型的につまずくポイントは、大きく4つあります。

旧SAP(ECC 6.0 / SAP BW等)からのデータ抽出の複雑さ

ECC 6.0 や SAP BW などの旧SAP環境からデータを取り出すこと自体が、簡単ではありません。SAPのデータベース層には数万に及ぶテーブルが存在し、業務ロジックの多くがABAPプログラムやアプリケーション層に組み込まれています。

単にDBから直接 SELECT すればよい、というわけにはいかず、業務的に意味のあるデータを取り出すには SAP の作法(Extractor、ODP、RFC等)を理解した抽出が必要になります。SAPライセンスの観点から、データベースへの直接アクセスが制限されているケースも少なくありません。

周辺システムとのインターフェース変更

SAP ECC は多くの場合、CRM、SCM、独自構築の基幹システム、データ分析基盤(DWH/BIツール)など、数多くの周辺システムと連携しています。S/4HANAへの移行は、これら周辺システムとのインターフェースを大なり小なり見直す機会になります。

従来は ECC 側の独自仕様のテーブルから抽出していたインターフェースを、S/4HANA の新しいデータ構造に合わせて再設計しなければなりません。連携先の数が多いほど、この棚卸しと再構築の作業量が膨らみます。

移行中の業務継続:旧環境・新環境の並行稼働期間

基幹システムである SAP を、一瞬で旧から新へ切り替えるのは現実的ではありません。多くのプロジェクトでは、旧 ECC と新 S/4HANA を一定期間並行稼働させ、データを同期しながら段階的に切り替える、という進め方が取られます。

この並行稼働期間中、旧環境で発生したデータをどう新環境へ反映させるか、あるいは新環境のデータを旧環境側の周辺システムへどう供給するか、という双方向のデータ同期が必要になります。ここを軽視すると、業務停止時間が長くなったり、データ不整合が発生したりするリスクが高まります。

テーブル構造の大幅変更(S/4HANAでのスキーマ統合)への対応

S/4HANA は ECC からテーブル構造が大幅に変わっています。例えば財務会計領域では、ECC で別々のテーブルに分かれていたデータが、S/4HANA では Universal Journal という形で統合されました。物流・在庫管理など他の領域でも同様の再設計が行われています。

ECC 時代のテーブル名や列名を前提に作られた周辺システム連携・帳票・分析クエリは、S/4HANA ではそのままでは動きません。この差分をどう吸収するかも、データ連携設計の重要な論点です。

2. SAP移行プロジェクトのデータ連携アプローチ

SAP S/4HANA への移行アプローチは、大きく Greenfield と Brownfield の2つに分かれます。どちらを選ぶかによって、データ連携の設計も変わります。

Greenfield(全面刷新) vs Brownfield(コンバージョン)

Greenfieldは、S/4HANAを新規構築し、業務プロセスごと見直して新環境に乗せ替えるアプローチです。BPR(ビジネスプロセス再設計)を伴う本格的な刷新となり、データも新環境にゼロから設計し直して投入します。

Brownfieldは、既存のECC環境をそのまま S/4HANA に変換(コンバージョン)するアプローチです。既存のカスタマイズやデータをできる限り引き継ぎながら、テクニカルなアップグレードとして実施します。

観点 Greenfield(全面刷新) Brownfield(コンバージョン)
コンセプト S/4HANAを新規構築し、業務ごと再設計 既存ECCの資産を活かしながら、 S/4HANAへ変換
データの扱い 必要なデータを選定し、整えてから新環境へ投入 既存データをできるだけそのまま引き継ぐ
業務影響 大(業務プロセスごと変更) 比較的小(既存業務を維持)
データ連携の論点 旧環境からの抽出 + 新環境向けの再設計 変換前後のデータ整合性、周辺システム連携の再構築

どちらのアプローチでも、「旧環境からのデータ抽出」「並行稼働期間の同期」「周辺システムとのインターフェース再構築」は共通して必要になります。

データ移行フェーズと並行稼働フェーズでの連携設計

SAP移行プロジェクトのデータ連携は、大きく2つのフェーズに分けて考える必要があります。

  • データ移行フェーズ:旧SAPの大量データを、一括で新S/4HANAや新データ活用基盤へ投入する初期ロード。データ量が膨大なため、抽出方式・処理時間の設計が重要。
  • 並行稼働フェーズ:移行後(または並行稼働中)の継続的なデータ同期。旧環境の変更を新環境へ、または新環境の変更を周辺システムへ、リアルタイムに反映し続ける。

ETLとCDCの使い分け

これら2つのフェーズに対応するデータ連携方式として、ETLとCDCがあります。

ETL(Extract / Transform / Load)は、データを定期的に一括で抽出・変換・ロードする方式です。データ移行フェーズの初期ロードや、大量データのバッチ処理に向いています。

CDC(Change Data Capture)は、データベースのトランザクションログから変更分のみを取得し、ほぼリアルタイムで連携する方式です。並行稼働期間の継続的なデータ同期や、移行後の周辺システムへのリアルタイム連携に向いています。

SAP移行プロジェクトでは、初期ロードはETL的に大量データを動かし、その後の並行稼働期間はCDCで継続同期する、という組み合わせが現実的です。Qlik Replicate は、この両方を同じ製品でカバーできる点が特徴です。

3. Qlik ReplicateのSAP対応機能

Qlik Replicate は、SAPシステムからのデータ連携において、複数の接続方式を用意しています。SAPの環境やライセンス、データの性質に応じて、最適な方式を選択できる点が強みです。主要な対応機能は次のとおりです。

  • SAP Application Server(RFC経由):SAPアプリケーションサーバーに対し、RFC(Remote Function Call)プロトコル経由でアクセスしてデータを取得する方式。SAPアプリケーション層を介するため、SAPライセンスの観点でDB直接アクセスが許可されない環境でも利用できます。
  • SAP Extractor:SAP標準の Extractor(DataSource)を利用してデータを取得する方式。RFC(Remote Function Call)経由でABAPプログラムを実行し、SAPアプリケーション層を介してデータを取り出します。DB直接アクセスが制限される環境でも利用可能です。
  • SAP ODP(Operational Data Provisioning):SAPのODPフレームワーク経由でデータを取得する方式。Extractor、CDS Views、SAP BW、SAP HANA Information Views、SLT など複数のコンテキストに対応し、SAPが公式に推奨する近代的な連携方式です。
  • SAP HANA(移行先としての直接連携):S/4HANA の中核データベースである SAP HANA に直接連携できます。S/4HANA は SAP HANA を前提に設計されているため、移行先側のエンドポイントとしてこの SAP HANA 接続を利用することで、初期ロード後のターゲットへの書き込みや、周辺システムへ送り出すための S/4HANA データ読み出しを高速に実行できます。
  • SAP OData:S/4HANAが公開するOData APIを利用したデータ連携。クラウド環境やAPIベースのアーキテクチャに適しています。
  • SAP Sybase ASE:レガシーSAP環境でデータベース層として使われていたSybase ASEにも対応。既存資産からの抽出が必要な場面で利用します。

これだけ複数の方式に対応していることで、「旧SAP環境(ECC、SAP BWなど)からデータを抽出し、新S/4HANAへ移行、さらに周辺システム(DWH・BIツール等)へ継続的に連携する」という、SAP移行プロジェクトに必要な一連のデータフローを、Qlik Replicate一つでカバーできます。

4. SAP移行でのQlik Replicate活用パターン

SAP移行プロジェクトで Qlik Replicate を活用する典型的なパターンは3つあります。プロジェクトのフェーズに応じて、これらを組み合わせて使うのが一般的です。

パターン①:旧SAP → 新S/4HANAへのデータ移行(初期ロード)

移行プロジェクトのスタート地点。ECC 6.0 や SAP BW など旧環境のデータを、S/4HANA へ初期ロードします。大量データを一括で動かす局面で、Qlik Replicate の SAP Application、Extractor、ODP の各エンドポイントを用途に応じて使い分けます。

ライセンス制約に応じて、SAP Application Server(RFC経由)、Extractor、ODPの各エンドポイントを用途に応じて使い分けます。

パターン②:並行稼働期間の差分同期(旧→新の継続的連携)

初期ロード後も、旧環境では業務が動き続けているため、その変更分を新環境へ継続的に反映する必要があります。ここで Qlik Replicate のCDC機能が活きます。

旧SAPで発生した変更を、CDC方式でほぼリアルタイムに新環境へ反映できるため、並行稼働期間中のデータ整合性を保ちながら段階的に切り替えを進められます。本番カットオーバー時のダウンタイムも最小限に抑えられます。

パターン③:SAP → 周辺システム(CRM・DWH等)へのリアルタイム連携

S/4HANAへの切り替え後も、データ活用基盤や周辺システムとの連携は継続的に必要です。Qlik Replicate を使えば、S/4HANA(SAP HANA、OData等)から、Snowflake、Redshift、BigQuery、Databricks などのクラウドDWHや、社内のCRM・SCMへ、リアルタイムにデータを供給できます。

移行プロジェクトのためだけでなく、「移行後のデータ活用基盤の中核」としても継続活用できる点が、SAPユーザーにとっての大きな価値です。

5. 導入事例:DICのSAP S/4HANA移行プロジェクト

実際の活用事例として、化学メーカーのDIC株式会社の取り組みをご紹介します(インサイトテクノロジー支援案件)。

プロジェクトの概要

DIC は1908年創業の化学メーカーで、印刷インキ・有機顔料・合成樹脂などを世界62カ国の拠点で製造販売し、グループ会社は185社にのぼるグローバル企業です。基幹系システムとして SAP ECC を長年運用してきましたが、2022年からデータ活用体制のさらなる整備を目的に、S/4HANA への移行プロジェクトを開始しました。

このプロジェクトで目指したのは、単なる ERP のバージョンアップではなく、ビジネスプロセスの改善と周辺システム環境の刷新です。S/4HANA への切り替えと並行して、周辺システムのデータを統合する新たなデータ活用基盤「デジタル統合プラットフォーム」を構築する、という大規模な取り組みでした。

Qlik Replicate による解決

DIC はこのプロジェクトで Qlik Replicate を採用しました。選定理由として挙げられているのが、SAPとの連携に優れていること、大量データを柔軟かつ効率的に処理できること、そしてインサイトテクノロジーのパートナーサポートが受けられることです。

  • スムーズなデータ連携:SAP S/4HANA への切り替え後、迅速に新しいデータ活用基盤への接続を完了。
  • ビジネス中断の最小化:ビジネスの中断を最小限に抑えながら、新たなデータ基盤の即時運用を実現。
  • 将来のデータ増加への対応:データの増加や多様化にも柔軟に対応可能。多角的なデータ分析・活用が可能に。
  • ノーコード/ローコードでの実装:簡単にデータ連携が実現し、レポート作成やダッシュボード構築の時間も短縮。

DIC 情報システム部 中西功介マネジャーは、「Qlik Replicate の導入により、SAP ECC からの切り替え後でも迅速にデータを連携できるようになり、地域や事業単位でのレポート作成がリアルタイムで行えるようになった」と振り返っています。

▶ DIC事例の詳細はこちら

まとめ

  • SAP ERP 6.0 の標準保守は2027年末で終了(延長保守は2030年末まで)。多くの企業が S/4HANA 移行の判断を迫られている。
  • SAP移行プロジェクトのデータ連携課題は、①旧SAPからのデータ抽出の複雑さ、②周辺システムとのインターフェース変更、③並行稼働期間のデータ同期、④S/4HANAでのテーブル構造変更への対応、の4つに集約される。
  • 移行アプローチ(Greenfield/Brownfield)と、フェーズ(データ移行/並行稼働)の組み合わせで、必要な連携設計が変わる。ETLとCDCの使い分けがポイント。
  • Qlik Replicate は、SAP Application・Extractor・ODP・HANA・OData・Sybase ASE と、複数のSAP連携方式に対応。移行プロジェクトに必要なデータフローをひとつの製品でカバーできる。
  • 典型的な活用パターンは3つ:①旧SAP→新S/4HANAの初期ロード、②並行稼働期間のCDC同期、③S/4HANA→周辺システム(DWH等)へのリアルタイム連携。
  • DICのSAP S/4HANA移行プロジェクトで、Qlik Replicate が実際に採用され、ビジネス中断を最小化したデータ連携基盤の構築に貢献。

SAP S/4HANA移行のデータ連携を検討されている方へ

インサイトテクノロジーでは、SAP移行プロジェクトのデータ連携を、Qlik Replicate の提供および技術サポートで一貫してご支援しています。アセスメントの段階からお気軽にご相談ください。

▼ Qlik Replicateの資料をダウンロード
https://www.insight-tec.com/download/document_0006

▼ Qlikが実現できるデータ連携について詳しく見る
https://www.insight-tec.com/products/qlik-data-integration-platform

▼ データ連携の悩みをまず相談する
https://www.insight-tec.com/products/qlik-data-integration-platform/#f

関連製品

関連最新記事

TOP インサイトブログ データ統合 SAP S/4HANA移行におけるデータ連携の課題と解決策

Recruit 採用情報

Contact お問い合わせ

  購入済みの製品サポートはこちら

製品サービス

自社開発製品群

データ統合

ディザスタリカバリ

プロフェッショナルサービス