―― ツールの良し悪しではなく「データ構造の相性」の話

執筆者:CFO 永見 和平
導入:効率化のつもりが…
バックオフィスの効率化を目指し、新しいクラウド会計ソフトや予実管理ツールを導入する企業は多いと思います。当社もその一社でした。
管理会計の高度化、属人化の排除、集計工数の削減――そうした狙いから、予実管理に特化した専用ツールを導入しました。
しかし、結論から言うと、私たちは一度導入したそのツールを「解約」し、現在はExcelでの管理に戻っています。
「なぜ今さらExcelなのか」「せっかくツールを入れたのに失敗だったのでは?」と思われるかもしれません。
ただし、これは単純に“ツール導入に失敗した”という話ではありません。実際には、自社が管理したいデータの構造と、ツールの設計思想との間にあるギャップに早い段階で気づき、あえて引き返す判断をした、というのが正確な表現です。
この経験は、管理会計ツール選定において見落とされがちなポイントを考える一つの材料になるのではないかと思い、共有します。
課題:やりたかったのは「標準的な」分析
私たちがやりたかったことは、決して特別な分析ではありません。
多くの企業が日常的に行っている、ごく一般的なセグメント管理です。
具体的には、プロジェクトという大きな括りに対して、
- これはソフトウェアの売上なのか
- 保守サービスなのか
- あるいは導入支援・コンサルティングなのか
といった製品種別を紐付け、さらにその下でより細かい製品科目に分解しながら、予算と実績を把握したいと考えていました。
「どのプロジェクトが、どのサービスで、どれだけ利益を出しているのか」
経営判断を行う上で、これ以上でもこれ以下でもない、いわば“当たり前の粒度”です。
ただ、これは管理会計の話であると同時に、データをどういう階層構造で持つかという、極めて設計寄りの問いでもありました。
直面した壁:名称の重複ができない仕様
私たちは、データベース設計やデータモデリングに日常的に向き合う立場でもあります。
そのため、導入後すぐに本番運用に移行するのではなく、まずは「運用上もっとも厄介になりやすいケース」を意図的に再現する検証を行いました。
その一つが、「事業は違うが、名称は同じ項目を持たせる」というケースです。
例えば、
- 「A事業」の下にある「保守費用」
- 「B事業」の下にある「保守費用」
私たちの運用では、これらは名称は同じでも、文脈(事業・プロジェクト)が異なる、別の管理対象です。
ところが、導入したツールでは、異なるカテゴリ配下であっても「同一名称の項目」を別エンティティとして持つことができない仕様でした。
事業ごとに同名の項目を作ろうとすると、どこかで名称を変える、あるいは階層構造を歪める必要が出てきます。
これは操作性の問題というより、マスタ設計やキーの持ち方に根ざした、ツールの設計思想そのものでした。
補足しておくと、これはそのツールの欠陥という話ではありません。
単一事業や、管理したい勘定体系が比較的シンプルな組織にとっては、非常によく設計されたプロダクトだと思います。
ただ、私たちが管理したかった「横断的で、かつ文脈依存のセグメント管理」とは、根本的な部分で思想が噛み合いませんでした。
現在:あえてExcelに戻るという選択
検証を重ねた結果、私たちはそのツールでの本格運用を断念しました。
現在は、会計ソフトから出力したデータをExcelに集約し、VLOOKUPや関数を使ってプロジェクト属性・製品属性を紐付けて管理しています。
一見すると、ツール導入からの「後戻り」に見える判断かもしれません。
しかし、私たちはこれを現時点での最適解だと捉えています。
管理会計ツールは、前提となるデータ構造やセグメントの切り方が十分に固まり、組織内で合意されて初めて、その力を最大限に発揮します。
構造がまだ変化し続けている段階では、Excelのほうがむしろ柔軟で、試行錯誤に耐えられることも少なくありません。
手間は確かにかかりますが、「自分たちが望む当たり前の分析」を歪めずに行えることを、私たちは優先しました。
皆様への提言:ツールを選ぶ前に、自社の「データの形」を知る
今回の経験から得た最大の教訓は、「高機能なツールを導入すればすべてが解決するわけではない」という点です。
どんなに優れたシステムでも、その設計思想(マスタ管理の前提、階層構造の持ち方、許容される制約)が、自社が管理したいデータの形と合致していなければ、どこかで歪みが生まれます。
ツール選定で本当に難しいのは、「何ができるか」ではなく、「何を前提として切り捨てている設計なのか」を見抜くことなのかもしれません。
これから管理会計の高度化やシステム刷新を検討されている方に、ぜひ問いかけてみてほしいことがあります。
- 自社が本当に管理したいセグメントの階層はどうなっているか
- そのツールは、現場の運用ルールを無理なく受け入れられる柔軟性があるか
ツールを見る前に、まず自社の「データの形」を言語化すること。
それが、私たちのような遠回りを避けるための、最も重要で、そして最も地味なステップだと、今ははっきり感じています。
