前回の記事にも書きましたが、2024年のデジタル赤字は6.6億円にもなっているそうです。日本企業のDXに伴って、海外の大手クラウドの利用がこれからも増加するのではないかと考えられます。日本では「ガバメントクラウド」による日本の自治体向け行政システム標準化が進められていますが、ここでもAWS/Azure/GCPといった海外クラウドだけが認定されてきました。
2021年9月に施行された「地方公共団体情報システムの標準化に関する法律(標準化法)」で、2025年度末までに住民基本台帳や税に関わる基幹業務を、デジタル庁が定義した標準に準拠したシステムへ移行することが義務づけられました。この標準に準拠したシステムがガバメントクラウドというわけです。
この標準化法では1700を超える自治体にガバメントクラウドへの移行を要求しています。それも、複数の自治体で共通化したシステムを利用するのではなく、各自治体ごとのシステム基盤をガバメントクラウドへ移行するということのようです。
実際に移行を行うのは自治体の職員ではなくSIベンダーであることがほとんどなので、選定や検討、実施といったスケジュールを考えると2025年度末の移行完了は現実的ではありません。
ガバメントクラウドへの移行には、いくつかの懸念があります。
まず移行の目的はシステムの標準化によるコスト抑制だと言われていますが、先行して移行を進めている自治体からは、逆にコストが上昇したという意見が多く発信されています。
また、表だっての発信はあまりなさそうですが、大手のSIベンダーは以下のような理由で移行に消極的です。
- 人材不足
- スケジュールが短期間
- 既存のレガシーシステムをクラウドに対応させることが難しい
IT技術者であれば、海外の大手クラウドの仕様に合わせて、レガシーな既存の地方自治体システムを移行することの難しさは容易に想像できるかと思います。また、住民の個人情報を含む重要なシステムを海外企業が運営するサービスに配置していいのかという懸念もあります。
実際に、2022年にアリババクラウドが台湾リージョンの運用を突然停止し、台湾ユーザーは他のリージョンへの移行を強いられました。その際、主に中小企業などが短期間で移行することができず、大きな影響を受けたそうです。この件は政治的な側面が大きいと思いますが、米国の大手クラウドでも同様のことが起きないとは限りません。
前回の記事で、最近さくらインターネットが条件付きながら国産で唯一のガバメントクラウドに選定されたと書きました。その条件とは、インフラの「テンプレート」を提供せよというものだそうです。残念ながら現時点では規模の違いもあり、コストや機能面では大手海外クラウドの方に軍配が上がります。しかし、さくらインターネットには日本企業であるという利点があります。その利点を活かして日本の自治体の現状に則したテンプレートを作成し、少しでも大手海外クラウドベンダーの牙城を崩していってほしいと思います。
