THK株式会社は全社でのデータ活用を推進している。しかし、その土台となる基幹システムのデータ連携基盤は、たびたび停止する不安定さと大量更新時の同期遅延という課題を抱え、データ活用拡大の足かせとなっていた。こうした課題の解決に向けて同社が採用したのが、CDC技術を活用した「Qlik Replicate」と、IBM iに精通したインサイトテクノロジーによる導入支援である。
旧環境では数時間かかっていた大量データの同期が、Qlik Replicate導入後は数分で完了。「想定以上のパフォーマンスでした。ずっと困っていたので、本当に驚きましたね。」
経営戦略統括本部 情報システム統括部 IT戦略推進部 部長
寺岡 敏矢氏 経営戦略統括本部 情報システム統括部 IT戦略推進部 IT戦略推進課
藤原 優人氏
「LMガイド」のパイオニア、THKのデータ活用戦略
1971年の創業以来、機械要素部品の開発・製造・販売をグローバルに展開するTHK株式会社(以下、THK)。1972年には機械の直線運動部の「ころがり化」を独自の技術により実現し、「LMガイド(Linear Motion Guide=直線運動案内)」を世界で初めて製品化し、工作機械や産業用ロボット、半導体製造装置など、精密な動きを必要とする産業機械の高精度化・高速化・省力化を支えてきた。現在では、先端の製造現場に加え、医療機器、鉄道車両、免震・制震装置などに製品を提供している。
幅広い領域で事業を展開するTHKにとって、世界各地の工場の稼働状況や販売状況を正確に把握し、経営や現場の判断に生かすことは重要なテーマだ。THKではデータ分析基盤としてTableauを活用するとともに、情報システムを統括する部門に加え、データ活用の推進やユーザー教育を担う専門組織を設けるなど、情報をビジネスに生かす体制を整備してきた。同社の経営戦略統括本部 情報システム統括部 IT戦略推進部で部長を務める寺岡敏矢氏は「データ活用部門とともに生産・販売・在庫・経営管理といった領域を中心に情報活用を推進してきました。また工場が多い当社では、工場の可視化にも注力しています」と説明する。
経営情報、工場・営業データを各部門が活用するには、グローバル基幹システムにあるデータを安定して利用できる仕組みが不可欠だ。しかし、その情報活用を支える既存のデータ連携環境には、大きな課題があった。
不安定なデータベースが情報活用拡大の“足かせ”に
THKではこれまで、IBMの基幹業務サーバ(IBM i)で稼働するグローバル基幹システムのデータをデータベースに連携し、Tableauなどを通じて各部門が活用していた。しかし、Tableauの連携先となっていたデータベースは安定性に課題があり、障害による停止が頻発していたという。
「1~2カ月に1回程度は障害で停止していました。さらに定期メンテナンスではアメリカの日中に数時間停止することもあり、会議資料の作成などでデータを必要とする部門からは、改善を求める声が上がっていました」(寺岡氏)。
もう1つの課題が、IBM iからデータベースへのデータ連携に利用していたデータ統合ツールの存在だ。同ツールは大量更新時の同期性能に課題があった。IBM i側で大きな更新が入ると、同期完了まで長時間を要することがあり、各部門での利用を広げるうえでの制約となっていた。
こうした背景から、THKはデータ基盤の抜本的な見直しに踏み切る。具体的にはデータベースの置き換えとあわせて、IBM i上の基幹データを新たな基盤へ連携する仕組みの刷新に着手した。移行先として選定したのが、クラウド型データプラットフォームのSnowflakeである。あわせて、データ統合ツールがサポート終了になることから、データ統合ツールの刷新も検討した。
Snowflakeとの連携を担うデータ統合ツールに求めたのは、長年運用してきた基幹システムのデータを欠落や変質なく、新たなデータ活用基盤へ届け続けられることだ。また、大量更新が発生した際にも大きな遅延なく同期できること、主キーがないテーブルや重複レコードを適切に扱えること、IBM i固有の再編成処理を踏まえた運用ができることも重要な要件だった。寺岡氏は「これらの要件を総合的に判断した結果、『Qlik Replicate』が最適だと判断しました」と振り返る。

Qlik Replicateとインサイトテクノロジーの支援でPoCを推進
Qlik Replicateは、異種データベースやデータウェアハウス、クラウド環境を横断し、データの複製・取り込み・ストリーミングを行うデータ統合製品だ。変更データキャプチャ機能(CDC)では、ソースシステムへの負荷を抑えながら、更新されたデータをターゲット環境へ継続的に連携できる。THKのようにオンプレミスの基幹システムからクラウドDWHへデータを継続的に連携するケースで多用されているツールだ。
Qlik Replicateの導入にあたり、THKがパートナーとして選んだのがインサイトテクノロジーである。寺岡氏は「長年Qlik Replicateの日本総代理店を務めていた実績と、知見の豊富さを評価しました。実際、当社のシステム構成や課題を相談した際も、様々な提案をいただき、PoC(概念実証)環境もすぐに提供してもらい非常に助かりました」と説明する。
PoCで実感したのは、Qlik Replicateによるデータ連携性能の高さだ。旧環境では数時間を要していた大量データの同期が、Qlik ReplicateとSnowflakeを組み合わせた新環境では数分で完了するようになったという。
一方で、データ整合性とコストのバランスも重要な検証テーマだった。焦点となったのが、変更データをSnowflake側に整合性を保って反映するMERGE処理である。MERGE処理を使えば変更データを正しく反映できるが、Snowflake側でコンパイル処理に伴うコストが発生する。かといって使わなければ、削除と更新が別々に実行され、一時的にデータが欠けて見えてしまう。データの正確性を優先するには、MERGE処理が欠かせなかった。
この課題を解決するため、THKではインサイトテクノロジーの支援も受けながら、MERGE処理を前提に、更新頻度を調整することでコストとデータ鮮度のバランスを調整した。寺岡氏は「工場系のように高い鮮度が求められるデータは短い間隔で、販売系など一定の間隔で十分なデータは1時間程度で同期するなど、利用目的に応じて頻度を調整しました。ユーザー(社員)には『頻繁なデータ更新はコストがかかります』と伝え、そのニーズを見極めました」と説明する。
PoCでは性能・コスト・運用性を見極めるため、検証期間を数回延長した。本番環境と同等の構成で、フル機能・全テーブルを約3カ月間稼働させ、実運用に耐え得るかを確認したのである。
「文字コード変換エラーへの対応方法や、ファイルロックで処理が長時間終わらない場合のタイムアウト設定など、課題が出るたびに対応方法を確認しながら検証を進められたことは、本番稼働へ踏み切るうえで重要でした。その結果、PoCから本番稼働への移行もスムーズで、Qlik Replicateの移行そのものに大きなトラブルはありませんでした。IBM iに関する細かな質問にも丁寧かつ迅速に対応していただいたので、安心して検証を進められました」(寺岡氏)

自社構築した本番環境を、QEMによる一元管理で安定運用へ
PoCで性能や運用性を確認した後、THKはQlik Replicateの本番環境構築に着手した。Qlik Replicateの本番サーバ4台を自社で構築し、インサイトテクノロジーの支援を受けながら設定を見直し、安定して稼働できる状態まで詰めたうえで、2026年1月末の本番稼働に至った。
現在のデータ連携基盤では、IBM iで管理するグローバル基幹システム約2,700テーブルのうち、約1,100テーブルをQlik ReplicateでSnowflakeへ同期している。本番稼働開始から数カ月が経過した現在も、業務影響を伴う大きな課題の発生や業務負荷の増加はない。
一方で、本番運用を進める中で新たに見えてきた課題もあった。複数のQlik Replicateサーバにタスクを分散して運用するようになると、どのタスクがどのサーバで稼働しているのかを確認する手間が増えたのである。同期エラーの有無を確認するにも、サーバごとに管理画面を開いて稼働状況を確認する必要があった。
こうした運用負荷を軽減するために導入したのが、「Qlik Enterprise Manager(QEM)」である。QEMは、複数のQlik Replicateサーバ上で稼働するタスクを一元的に管理・監視できるツールだ。THKではQEMについても、インサイトテクノロジーの支援を受けながら自社で環境を構築した。
同社の経営戦略統括本部 情報システム統括部 IT戦略推進部 IT戦略推進課の藤原優人氏は、「QEMを使えば、各サーバ、各タスクの稼働状況を一画面で把握できます」と説明する。

THKではさらに、QEMのAPI(Application Programming Interface)を活用し、稼働状況を自動チェックする機能も実装した。自社で閾値を設定し、異常があればメールで通知される仕組みを整えたことで、担当者が数時間おきに複数の管理画面を開いて、稼働状況を確認する必要はほぼなくなったという。
「自律的に稼働し、異常があればエラーを通知してくれる。普段の業務でQlik Replicateの管理を意識する場面はほとんどありません」(藤原氏)。
データ基盤を刷新したことで、テーブル追加や保守にかかる工数も大きく減った。トラブル対応に追われるのではなく、より前向きな情報活用の取り組みに時間を使えるようになったことも大きな効果だ。
今後、THKではSnowflake上に蓄積されたデータを起点とした生成AIの活用に注力していく方針だ。将来的には、プログラムを書いたりTableauを作成したりするスキルがない社員でも、自然言語で社内情報にアクセスし、必要なインサイトを得られる環境を目指す。
「現在は営業部門に対し、顧客訪問前の情報収集やマーケット分析など、どのようなデータが営業活動に役立つのかをヒアリングしている段階です。将来的には、需要や在庫の見通しも含めて、営業、工場、本社の社員が必要なデータにアクセスし、意思決定に生かせる基盤にしていきたい。その土台となるデータ連携を支えているのがQlik Replicateです」(寺岡氏)。